仙台リハビリテーション専門学校
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事業概要報告

1. 事業の趣旨・目的
1.1.事業の趣旨・目的
 特別支援学校に学ぶ全国の児童・生徒の人数は年々増加の傾向にあるが、宮城県も同様で特に知的障害者の占める比率が高い。
 知的障害者の社会参加の促進・人材活用は地域の重要な課題だが、現状では特別支援学校高等部卒業生の就職率は3割に満たず、就職できてもその後の定着率は芳しいと言い難い。また、進学先が極めて限られているため進学率は3.7%に留まっており、多くは福祉施設等入所・通所という進路を取らざるを得ない。
 このような現状に対して「知的障害者が高等部卒業後にじっくりと社会生活や職業を学べる場が必要」という認識が高まり、「高等部卒業→就職」ではなく卒業後の学びの場を提供し「高等部卒業→進学→就職」というルートを確立し、進学のステップで社会参加の準備を整えられる学習機会を設ける取り組みが各地で進められている。
 そこで本事業では、地域に密着して職業教育を実践している専修学校を知的障害者の新たな進学先「学びの場」とすることを目的に、知的障害者が社会生活や職業をじっくりと学べる学科を構築する。これにより、知的障害者の社会参画を促し地域の活性化に資することが狙いである。

1.2.学習ターゲット・めざすべき人材像
 社会生活や職業に係る学びを通じて、職場や地域、家庭で自立した社会生活を営み、職場 で働き続ける上で必要となる知識や技能を習得すると共に、基本的な態度や習慣を身につける。

1.3.取り組みの背景
■特別支援学校に学ぶ知的障害児・生徒の増加
 特別支援学校に学ぶ全国の児童・生徒の総人数は年々増えているが、宮城県においても同様で、以下のグラフに示されるように平成20年度は2,125人であったが、平成29年度は2,570人と約1.2倍の増加となっている。
 在籍児童・生徒を障害の種別でみると、これも全国的な傾向と同じく知的障害が最も多く、平成29年では知的障害は2,314人でほぼ9割を占めている。また、このうち高等部(本科)の生徒は全体の半数以上となる1,270人である。
 
■知的障害者の高等部卒業後の進路をめぐる課題
 特別支援学校高等部に進む知的障害者が増える一方、高等部卒業後の進路に関しては様々な課題がある。次に示すグラフは、宮城県内の特別支援学校高等部卒業生の進路をまとめたものである。
 最も多いのは「社会福祉施設等入所・通所等」の60.8%で、「就職」は28.0%と3割に満たない。一方、「進学」は非常に少なく、「大学・短大」と「特別支援学校専攻科」への進学者の合計は3.7%に留まっており、「専修学校」は0%である。
 これは、卒業生の多くが充分な社会的自立を果たせずにいる現状を示すものとみることができるが、それを打開する有効な方策のひとつと考えられるのが卒後教育の充実化である。具体的には、【高等部卒業→進学→就職】というルートの強化である。【高等部卒業後→就職】ではなく、「進学・教育」というステップを踏むことで、しっかりとした時間を確保して社会に出て働くための準備に教育・学習を行うというアプローチである。
 
■知的障害者の学びの場の必要性
 知的障害者の進学率が低い理由のひとつとして、進学の受入れ先が極端に少ないという事情がある。特別支援学校専攻科は卒業生の進学先となるが、その数は全国で9校しかない。そのため多くの場合、卒業生の進路は一般就労・福祉型就労のいずれかという方向に強く向けられることになるが、就職できる人数は3割に満たない。しかも一般企業に就職できても、1年後の職場定着率は68%という調査結果注1)もあり、知的障害者の社会参画には厳しい現実がある。
 このような状況の中、「高等部卒業と同時に社会に出ていくには充分な準備が整っていないのではないか」「障害があるからこそ、卒業後もじっくりと学べる環境が必要ではないか」という認識が高まっている。
 
 例えば、上のグラフは全国障害者問題研究会茨城支部が知的障害者の保護者を対象に実施したアンケート調査の結果だが、「特別支援学校高等部卒業後の進学は必要だ」とする意見が7割を超えている。調査の実施担当者は、この結果を踏まえて「潜在的に障害者の高等教育へのニーズは高い」とする一方で、「現在の特別支援学校高等部はほとんど進路指導で進学の選択肢を提示しておらず、こういった要望はかき消されているのが現状」という見方を示している注2)。
 このような状況の下、知的障害者に学びの場を提供しようとする取り組みも進められている注3)。例えば、教育サイドの取り組みでは一部の大学が開催する知的障害者対象の公開講座「オープンカレッジ」がある。先駆者である大阪府立大学の他、宮城大学、東京学芸大学、武庫川女子大学、桃山学院大学、徳山大学など各地で展開されるようになっている。一方、福祉側からは障害者自立支援法によって開始された全国各地の生活訓練事業所が、日常生活能力の向上をめざす新たな学びの場となっている。また、カレッジ福岡(福岡県)のように、社会福祉法人が進学の受け皿を担い、卒業後の追跡調査で高い就職定着率を実現している事例もある。
 今後はこのような取組に加えて、知的障害者の学びの場のさらなる確保に向けて、新たな学習機会・場の創出を促進していく必要がある。
■専修学校を知的障害者の新たな学びの場へ
 専修学校においても、知的障害・発達障害を持つ生徒を対象とする学科を運営している先駆的な事例がある。そこでは障害に応じたきめ細かい指導で成果・実績を積み上げている。地域に密着した職業教育を実施している専修学校は、知的障害者の学びの場としても充分機能するだけの潜在力を有している。専修学校では、職業教育・専門教育だけでなく生活面での指導や就職活動の指導、保護者との連携などを日常的に実施しており、その意味において、学生の社会参加と就職に係る全般を教育の対象としている。もちろん、健常者に対する教育と知的障害者に対する教育には様々な相違があるが、その部分を適切に解消できれば、専修学校は地域の知的障害者にとって新たな学びの場となり、知的障害者は社会的自立に向けたステップを踏めるようになる。また、専修学校もこれまでとは異なる地域社会での新たな役割を果たせるようになる。そのためには、専修学校が知的障害者に対する理解を深め、適切なカリキュラム・教材と指導支援ツール、きめ細かい指導・支援のための体制を整えていかなければならない。
■全国各地の実施モデルの必要性
 これまで見てきたように、知的障害者の高等教育への進学・職業教育への潜在的ニーズは高く、それに応えようとする全国各地の取り組みが展開されつつある。専修学校の特徴や強みを踏まえれば、こうした知的障害者の進学・学習・就職支援の拠点としての役割が大いに期待されるところである。しかしながら、このような地域ニーズに対する取り組みの指針や具体的な教育内容・実施方法等に関して明確とされていないのが現状である。これからの専修学校における知的障害者に対する職業教育が展開されていくためには、専修学校の教育実績や強みを活かしつつ、知的障害者の障害特性や学習ニーズ等に応じたきめ細かい職業教育の実施モデルを構築し、知的障害者の職業教育に取り組む(取り組もうとする)専修学校で、これを共有・活用できる方策を推し進めていく必要がある。
 注1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター:『障害者の就業状況等に関する調査研究』(2017年)
 注2)「知的障害者に進学は必要ない?「お父さんと同じ仕事がしたい」」、THE PAGE、2016年8月4日
 注3)牧野誠一:「知的障害者の高等支援学校卒業後における学びの場の保障」、札幌学院大学人文学会紀要(2016年)
2. 取り組み内容
   PDF>取り組み内容(1,062KB)
3. 事業成果とその活用
   PDF>事業成果とその活用(798KB)